バットマン リターンズ
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 もちろんほかのバットマンシリーズは観ました。でもなんと言ったって第2弾である本作がずば抜けて印象的です。にわかにティム・バートン映画を観始めて数日。この映画に出会って完全にブチのめされました。
 オープニングからしてただ事じゃない雰囲気が漂っています。バートンの「さあ作るぞ!」という意気込みが聞こえてきそうです。前作はどうも制約がかった作りという感じがしましたが、バートン自身、「この映画は前作の続編ではない」と公言しているように、今回は手放しでバートンの映画だ、と実感することができます。バートン作品常連の音楽担当であるダニー・エルフマンも実にいい仕事をしています(この映画のサントラは隠れた名盤です)。美術面も隅々までバートンの美意識が行き届いていて、観ているだけで楽しいです。
 人間界から見放された動物超人の三つ巴。「どうせおれのことなど誰もわかってくれない」なんてオーラというか怨念を出しまくり、いわばハードボイルド版「シザーハンズ」とも言うべき内容の超プライヴェート映画に堂々と「バットマン」と銘打って世に出してしまうティム・バートンって、つくづくステキな人です。
 一人っきりのクリスマスにはもってこいの映画ですよ。ん?なんか聞こえた?

 ↓ネタバレ全開です。(前作と「ビッグ・フィッシュ」を未見の方はご注意・・・)
                                                  鈴木



 それにしても、「バットマン」とタイトルが付いているのに、バットマンがあまりいい人に見えないのはどういうことでしょう。自分の敵をおとしめるために地下からコソコソと公共電波をジャックするとか、やたらと攻撃方法に不意打ちが多いとか。両親を殺されたトラウマから悪を憎むようになった、という構図も希薄になっているし。悪はいかん、とただ言い続ける優等生という感じ。正義の名のもとに悪に鉄槌を下すヒーロー、と言われてもうーん、とうなってしまいます。まあ、正義のヒーローなんて往々にしてそういうポジションなのですが。正義の、悪の所在なんていうのはもともとないのかもしれません。バートンの演出は、正義を振りかざして、自分の行動の是非も省みず半ば盲目的に制裁を加えようとする世の人々への苦言を呈しているかのようです。
 ペンギンやキャットウーマンについてですが、彼らには共感できないとまでは行かなくても、彼らの行動の真意がつかみにくいというのは否めません。彼らは暗い過去を背負っているのに、傍若無人に振舞って、語弊はありますが、楽しそうにさえ見えます。これについてバートン作品の「ビッグ・フィッシュ」に出てきた言葉を借りると、「世の中で悪人と呼ばれている者は、結局は孤独で礼儀知らずなだけ」。彼らは人と違う特徴を持つがゆえに、ペンギンが言うように、俺は血も涙もない怪物だ、と開き直ることでしか自分の存在意義を見出せないのです。それゆえ周りは彼らを「悪人だ」と言って距離を置き、またその「悪人」は孤独になる、という悪循環を抱えているのです。「ビッグ・フィッシュ」に出てきた言葉は、彼らのそうした悲しい心理を言い当てたものであるように思います。「リターンズ」は、「悪とは何か」という非常に深遠な問題を内包した映画です。ひとえに、マイノリティーの人々の心をよく知るバートンだからこそ言えることなのでしょう。
 また今作は、「愛とは何か」と問い詰めた映画でもあると思います。3人の動物超人たちは、皆愛に飢えています。バットマンは前作で付き合っていたヴィッキー・ベイルと別れ、親とも目の前で死に別れ、対するセリーナ・カイルは心無い上司に殺されかけ、人間不信に陥りキャットウーマンとして九生をまっとうしようとします。2人は孤独で危険な恋に落ちますが、彼らをつなぎとめているのは、お互い「裏の顔」があるがゆえに愛の拠りどころを見失った者同士であるという心の共有です。結局、まともに愛の恩恵を授からなかった人たちは、その寂しさを共有できる者同士としか結ばれないのです。
 ペンギンが企てる恐ろしい計画だって、元を正せば、ただ親に愛されたかったと言う純粋な願いが歪みに歪んだものなのでしょう。この映画には、社会的弱者のことを「普通じゃない」と極めつけ、愛を与えず、邪険に扱う側こそが悪なのだ、というとてつもなく重いメッセージがこめられています。そんなのはここで言うまでもなく単純なことですが、だからこそ見落としてしまう問題なのです。
 ペンギンが、自分の育ての親でもあるペンギンたちによって葬られるシーンで、結局彼は上の人間たちに受け入れられなかったのだと痛感させられます。少なくとも彼は、こうして愛してくれる者がいただけ幸せだったのでしょうか。そう感じると同時に、このシーンは、社会的にマイノリティーに追いやられている人たちに対する愛が欠乏した人間社会への警鐘であるかのようにも見えて、空恐ろしく感じるのです。

 この映画を一言で表すと、ヒーローもののタブーに触れた映画、と言えると思います。誰もがうすうす気付いていながらノータッチにしていたヒーロー映画のダークサイドを前面に押し出した作品。だからこそ、一つ一つの主張が心に深く突き刺さるのです。ヒーローものとして観るなら失格の映画だと思いますが・・・ヒューマンドラマとしてならすばらしい作品だと思います。最後に、こんな(いろんな意味で)危ない映画を撮りきってしまったバートンの意気に、乾杯。
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by chuoeiken | 2004-12-18 00:15 | SF
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