まったく、この男の限界はどこにあるのだろう。殆どの場合、映画監督は年を取るにつれて作品の「迫力」は落ちていく。しかし、クリント・イーストウッドという男は、70歳を過ぎてからピークを迎えているようである。それを『ミリオンダラー・ベイビー』が証明しているのである。 まず、迫力あるボクシングの試合が目を引く。マーティン・スコセッシの傑作『レイジング・ブル』に並ぶ程、リアリィテイのあるファィティングシーンである。75歳の監督が撮ったとは思えないほどの迫力が、この作品を素晴らしいものにしているのである。すなわち、主人公(ヒラリー・スワンク)の生きている証である『ボクシング』が完璧に描かれているのである。その為、観客は主人公が殴られる「痛み」(リングだけでなく、日常生活においても)を共有し、物語に深く感情移入してしまうのである。 ボクシングのシーンは素晴らしいが、この物語の本質ではない。この映画は、「人生」の物語なのである。人がどういう決意で生きて、死んでいくのかということについて深く、真剣に見つめた映画なのである。そういう意味では、黒澤明監督の『生きる』の現代版であるといえる。「生きる」ということは、胸に「決意」を秘め、その覚悟の元に懸命にもがくことであると感じた。そのことを、この映画の主人公が教えてくれるのである。 生きるということを真剣に見つめた映画ほど、迫力のあるものはない。真剣に見つめれば、必然的に人物や物語にリアリティが出てくるからである。近年、アメリカ映画でこれ程までに「生きる」ことについて考えさせられる作品はなかった。この作品は、今までの傑作がそうであったように、30年たっても色褪せないであろう。 三橋 慶太
by chuoeiken
| 2005-10-19 18:43
| ヒューマンドラマ
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