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飢餓海峡(監督内田吐夢、1965年)
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 圧倒される。昭和22年、台風のため嵐となった海で青函連絡船沈没の惨事が起きた。嵐の海は船客532名の生命を奪った。また、少し離れたところで大火事が起きていた。どちらも、本当にあったことである。それらの出来事を結びつけた水上勉の小説が原作だ。16ミリで撮られブロードアップされた映像は、荒くしかし異様な「凄み」を伝えてくるのである。
 何より三國連太郎の凄さが、この映画に圧倒的な説得力を与えている。打ち上げられた死体は乗船名簿より2人多かった。そこから、刑事の追跡、主人公の逃避行などが10年間に渡って描かれていくのである。三國の演技は、戦後まもなくでなかなか食えない状況にある貧困を伝えてくる。本当に痩せこけていて、目の前でおにぎりを食べている人を本当にうらやましそうに見るのである。その三國演ずる、犬飼という人物の「飢餓」がこの映画のキーワードだ。三國は登場のシーンから、その「飢餓」を感じさせてくる。しかしこの映画は、貧乏という「飢餓」だけを描いているのではない。人間の心の飢餓を描こうとしているのである。それは、生きるためなら何でもしようとする人間の心だ。人の「真実」を信用できない人間とは何なのか、そもそも「真実」とは何処にあるのか、ということを真剣に考えさせてくるのである。
 『飢餓海峡』は、内田吐夢が70歳を目前に撮った作品だ。それとは思えないこの映画の圧倒的な迫力が、人間誰もが持っている「飢餓」に観客を突き落とすのである。
                      三橋慶太
by chuoeiken | 2005-12-21 18:38 | ミステリー
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