まったくの私事だが、僕が小さいころ持っていたレンタルビデオのカタログの中で、紹介文やパッケージの写真を見るだけで震え上がっていた映画が何本かあり、その筆頭がこの映画だった。そして、この映画を観ないことには、自分は決して大人の階段を登れないだろうと一人で勝手に決めていたのだった。
と、例によって大げさなフリから始めてしまったが、観た印象としては、意外なことに怖いでもなく、グロいでもなく、美しかったのだ。物体Xの触手が勢いよくビチビチとうごめくシーンや、物体Xが人の姿をしながらも、人ならざる奇声を発しつつ炎に包まれるシーンなどは特に不思議な情感に満ちていた。 この映画はとにかく人が焼かれる。それがなぜか美しい。炎には攻撃的な面があれば浄化の作用もあるのだ。炎にそういった二面性があるように、観ている間、観客の二面性も浮き彫りにされる。この映画で描かれる特異な事態のもとでは、無駄なヒューマニズムを語る人物よりも、アンチヒーローであるはずのマクレディにいつの間にか肩入れしてしまっている。倫理観の喪失だ。人は、置かれた状況によって容易に価値観が変質してしまう。まるで物体Xの変身のように。 この世の生物はいくつもの種を淘汰し進化してきた。寄生し、同化し、仲間を殖やす。陳腐な言い方を許してもらえば、物体Xはまさに「生きもの」そのものなのだ。決まった形を持たない物体Xは、その時々の環境によって形質を変えてきた生物の縮図なのだ。 正解のないこの世において、人は決まった形を持たない。どんな姿にもなりうる。自分のよく知っているあの人は、本当にいつでもあの人なのか?いやそれ以前に、自分は本当にいつでも自分なのか?残念ながら、それは誰にもわからない。 最後にまたまた私事だが、この映画を観て僕は成長できたかというと、あれほど恐れていたこの映画を美しいと言うことが出来たし、まあ、成長と言えなくもないでしょう(投げやり)。炎に包まれる人間の姿を美しいと感じてしまった奴に成長という言葉を適用できるなら、の話ですが。 鈴木
by chuoeiken
| 2005-11-07 01:51
| SF
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