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クライシス・オブ・アメリカ(監督ジョナサン・デミ、米、05年)
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 現代の最先端の問題を扱った映画である。この作品は「サイボーグ」技術がどれだけの進歩を遂げているか知らないと、中途半端なSFが入った政治映画ではないかと勘違いしてしまう可能性がある。今や本気でアメリカは、着ると兵隊の能力を10倍にする殺戮兵器を開発しようとしているのである。
 今の段階でも、脳にプラグをつなぎ動かなくなった腕の代わりに、義手を考えるだけで動かす事ができる様になっている。ラットの脳に電極を繋ぎ、快楽中枢を刺激し、脳をコントロールする事によってラジコンの様に自由に動かす事ができる技術まである。それらの技術を脳=機械(コンピューター)・インターフェースという。さらに驚くべきは海葉チップである。記憶を司る海葉に似た構造を持つチップを作り、それを何十枚も重ねるのである。そのチップを人間の脳に埋め込むと(そのチップ内にあらかじめ情報を入れておいて)、とてつもない記憶を持った人工的天才が誕生するというわけである(実際に使われているかは不明)。また海葉チップは交換も可能であるらしい。すぐそこに、浦沢直樹の『PLUTO』の様な世界が来ようとしているのである。
 以上の様な知識を前提に映画を観ると、迫力が何倍にも増して見えるはずである(ジョナサン・デミ監督のサスペンスというだけで十分に面白いが)。『クライシス・オブ・アメリカ』は明らかに、戦争や政治そのものに焦点を当てた作品ではない。コンピュータ・インターフェースがこれから一体どんな問題をはらんでくるか想定し突き詰めた作品なのである。
 恐ろしい映画である。本当にアメリカは、この技術を軍事利用し始めたら(もう利用していたら)どうなるのか想像するとゾッとしてしまう。唯一の希望は、操られ続けた男がなんとか抵抗を見せたことだ。人間の根底を操れるのか、操っていいのか?何はともあれ、これからの世界を予言した映画である事は間違いない。                   

                       
                  三橋 慶太
by chuoeiken | 2005-11-26 16:16 | 社会派ドラマ
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