ロシアは数々の優れた映画を生み出してきた。エイゼイシュテイン、タルコフスキーの作品などだ。『父、帰る』からはそれら歴代の名監督の作品と同様の、一瞬の隙もない空気が感じられる。 漆黒の海の中からこの映画は始まる。それが、映画全てを暗示している。ストーリーは、至ってシンプル。父と子2人のロードムービーである。多くの監督が撮ってきた、いわば「定番」だ。しかしだからこそ、作品に監督の才能がはっきりと表れる。この定番の最高峰は、恐らくヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』であろう。1人の男の贖いの物語として、他の追随を許さない雰囲気をもっている。『父、帰る』はその正反対のルートを通り、「定番」の金字塔をうちたてたのである。 この普遍的作品の完成度は高く、「純文学」の様な味わい深さがある。12年ぶりに帰ってきた父と旅行にでる兄弟。父がそれまで何をしていたか、どうして帰ってきたか、劇中に明かされることはない。この映画を観た人は、その疑問を心のどこかで抱え続けていく事になる。「父親」という誰にでもいる存在を、この作品は特異な視点で訴えかけてくるからだ。「父」は最初から父ではないのだという事が、感覚として伝わってくるのである。 『パリ、テキサス』的な感動はこの作品にはない。この監督は一歩引いた一種、冷徹な目線で父と子を描いたからである。しかしラストシーン、息子達が父を見つめていたことだけは確かだ。 三橋 慶太
by chuoeiken
| 2006-01-07 15:48
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