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コーヒー&シガレッツ
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 関連性なく、ただ奔放に詰め込んだようにしか見えない数々の短編。それでも僕は、この映画から「世界はつながっている」というメッセージを感じずにいられませんでした。
 この映画で言う話の共通点というのはごく些細なもので、チェック模様のテーブルであるとか、「コーヒーとタバコが昼飯のつもりか?」「世界はひとつの共鳴伝導体」という台詞ぐらいなものですが、「あ、この模様とかこの言葉、前にも見たり聞いたことがある」と感じるだけで、なぜかホッとする気がするんですね。話の関連性がないように見せておいて、ほんのりどこかに世界のつながりを匂わせる、その湯加減が僕はとても心地よかったです。
 何より、この映画の世界をつなげているのは言うまでもなくコーヒーとタバコです。しかし、タイトルになっているにもかかわらず、コーヒーとタバコは主役なわけじゃない、あくまで脇役なのです。コーヒーとタバコは、世界の共通性を保つ接着剤の役目を果たさなければならないのです。誰もが知っている、人々の会話における脇役。
 この映画で、みんなしてまずそうにコーヒーやタバコを飲んでいるさまが好きです。そうでなきゃ、コーヒーやタバコは世界に広まることはないでしょう(例えば、「キャビア&フォアグラ」じゃ世界に広まりようがないのです)。僕は、コーヒーとタバコは、誰もが知っている(使える)という意味で、「言葉」の象徴ではないかと思いました。言葉が世界をつなげているのです。



 僕が特に印象に残った短編を二つ挙げます。
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 ひとつが「ジャック、メグにテスラコイルを見せる」。タイトルだけでは状況を想像できないインパクトがいい。これは、ホワイトストライプスというバンドの二人がテスラコイルという電気発生装置について話すという、タイトル以上の出来事は起こらない話なんですが、面白いのが、音楽家である二人が真面目に科学的な話を繰り広げているさまです。まさにこの映画の脈絡のなさを象徴するかのような話です。
 しかし考えてみれば、二人は音楽をやっている以上、科学のしくみから逃れることはできない。僕が聴くような音楽は、言ってみれば複雑な化学反応が形になったものです。音楽家は、楽器という道具を駆使して科学の世界を操作する科学者であると言えるのです。二人が真面目に科学の話をしているのは、なんら不思議なことではありません、なんてことまでこの映画の製作者が考えているとは思いませんが、僕は、音楽と科学の二つの世界をひとつの話にまとめたそのセンスにただ参りました。
 要するに世界はそれぞれお互いに連関せずにはいられないということです。「音楽」という言葉は、「音楽」という概念それだけで成立するものではなく、あらゆるその他の概念が集約して成立しているのです。確かに、世界はつながっている。そこに至って、メグが例の「地球はひとつの共鳴伝導体か」という言葉をつぶやいてカップをスプーンで叩く様子に、言いようのない深みを感じました。
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 もうひとつが「問題なし」という話。僕はこれが一番気に入りました。
 ある男性が友人をカフェに呼んで、彼は何気なく友人を呼んだのに過ぎないのに、友人は彼に何かあったんじゃないかと心配して「どうかしたのか?」と訊くけど、男性はただただ「問題ない」と答える。そして延々とそのやり取りが繰り返される。
 「問題なし」の押し問答がおかしくて笑っちゃうんですけど、それがすごく温かなんですね。友人のしつこいくらいの気遣いと、何気なく友達を呼んだ男性の飾り気のなさとに、深い友情を感じずにはいられない。
 現に気軽に友人を誘ったりすることのない僕は、男性を心配する友人のほうの気持ちが特にわかります。しかしこの妙な押し問答を見ながら改めて思いました。どうしてありもしない心配をしなきゃいけないんだろう、どうして気軽に友達を呼ぶことを恥ずかしがらなきゃいけないんだろう、どうしてお互いに「問題なし」という言葉を素直に飲み込め合えないんだろう。それを考えると、妙に泣けてきます。
 何かにつけて「問題なし」という言葉を言うことが難しい世の中かもしれません。しかし、確かに「問題なし」と言える瞬間が誰にでもある。その瞬間がある限り、人は生きていけるのであり、またその言葉を素直に受け入れる瞬間も同じように大切なのです。
 二人のそういうやり取りが、僕の周りだけのことではないんだということは強い励みになり、世界はつながっていると最も感じた瞬間でした。
                            鈴木
by chuoeiken | 2006-03-01 04:37
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