カテゴリ:社会派ドラマ( 6 )
タクシードライバー
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 トラビスはなぜ眠れなかったのか?
彼がタクシーの運転手という仕事を選んだ理由に「不眠」が一つあるのだ。
神経質と言えるまでに「正しいこと」に固執した彼は「ゴミ溜め」のような街の中で中性的な位置にいた。それがタクシードライバー、そう思える。
 スーツでもなく、完全武装でもなく、小汚いジャンパーを着ているときだけ彼は街を傍観できる。しかし彼は時にタクシードライバーをやめて上品な人間を振舞う。それが終われば今度は銃を何丁も装備したテロリストになってみる。その振り子のような変貌ぶりを観ていると胸がギスギスと痛んでくる。切なくなってくる。
 その不安定さは彼だけではなく、私たち誰もが持っているものではないだろうか。誰も知ってくれない、共有できない不安。いや、不安であるからこそ共有を恐れるのかもしれない。トラビスの不眠症はフィクションではないはずだ。

 振り子がもっとも速くなるのはその中間点である。タクシードライバーに戻った彼はさらに眼光を鋭くして夜の街に消えていく・・・。
 個人的にケルアック、バロウズなどのビート・ジェネレーションの香りもほのかに感じてしまったこの映画、主演はもちろんロバート・デ・ニーロ。非常にかっこ良い。(オ)
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by chuoeiken | 2006-04-01 00:58 | 社会派ドラマ
戦争のはらわた(監督サム・ペキンパー、西独=英、77年)
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 本物の戦争映画である。この作品を観ると他の多くの戦争映画がウソ臭く見えるであろう。すなわち、「戦争は人間と人間が殺しあっているに過ぎない」と言うことが伝わってくるのである。
 映画の前半、ドイツ人とロシア人との戦闘がある。30年前の作品と馬鹿にしてはいけない。『プライベート・ライアン』のオハマ・ビーチのシーンと負けず劣らずのリアリティがあるのである。しかしその戦闘シーン、私にはロシア人とドイツ人の区別が殆どつかなかった。後のシーンを観て、それが意図的な演出であることが分かる。ペキンパー監督は「戦争」を描こうとしている訳ではなかったのだ。人と人の殺し合いを描こうとしていたのである。「殺し合い」のシーンには音楽が一切使われていない。昨今のエンタテイメントとしての戦争映画とは一線を画しているのである。
 この作品のあまりに冷徹な設定にゾッとさせられる。特に、主人公ジェームス・コバーンが同じドイツ兵を撃ち殺すシーンがそうである。自分も同じ立場なら、同じように撃ち殺したかも知れないと考えさせられるのだ。戦争は、人が人を殺しても仕方ないと思わせる状況を生みだすのである。この映画を観た人は、ジェームス・コバーンの笑い声が1日中頭から離れないに違いない。                            
                   三橋 慶太
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by chuoeiken | 2005-12-20 17:18 | 社会派ドラマ
クライシス・オブ・アメリカ(監督ジョナサン・デミ、米、05年)
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 現代の最先端の問題を扱った映画である。この作品は「サイボーグ」技術がどれだけの進歩を遂げているか知らないと、中途半端なSFが入った政治映画ではないかと勘違いしてしまう可能性がある。今や本気でアメリカは、着ると兵隊の能力を10倍にする殺戮兵器を開発しようとしているのである。
 今の段階でも、脳にプラグをつなぎ動かなくなった腕の代わりに、義手を考えるだけで動かす事ができる様になっている。ラットの脳に電極を繋ぎ、快楽中枢を刺激し、脳をコントロールする事によってラジコンの様に自由に動かす事ができる技術まである。それらの技術を脳=機械(コンピューター)・インターフェースという。さらに驚くべきは海葉チップである。記憶を司る海葉に似た構造を持つチップを作り、それを何十枚も重ねるのである。そのチップを人間の脳に埋め込むと(そのチップ内にあらかじめ情報を入れておいて)、とてつもない記憶を持った人工的天才が誕生するというわけである(実際に使われているかは不明)。また海葉チップは交換も可能であるらしい。すぐそこに、浦沢直樹の『PLUTO』の様な世界が来ようとしているのである。
 以上の様な知識を前提に映画を観ると、迫力が何倍にも増して見えるはずである(ジョナサン・デミ監督のサスペンスというだけで十分に面白いが)。『クライシス・オブ・アメリカ』は明らかに、戦争や政治そのものに焦点を当てた作品ではない。コンピュータ・インターフェースがこれから一体どんな問題をはらんでくるか想定し突き詰めた作品なのである。
 恐ろしい映画である。本当にアメリカは、この技術を軍事利用し始めたら(もう利用していたら)どうなるのか想像するとゾッとしてしまう。唯一の希望は、操られ続けた男がなんとか抵抗を見せたことだ。人間の根底を操れるのか、操っていいのか?何はともあれ、これからの世界を予言した映画である事は間違いない。                   

                       
                  三橋 慶太
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by chuoeiken | 2005-11-26 16:16 | 社会派ドラマ
八月の狂詩曲(監督黒澤明、1991年公開)
 
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「映画」とは何か?という問いの答えのヒントが、この作品の中にある。音と映像とストーリーがマッチした瞬間、映画は他の芸術では成し得ない現象を生み出す。その現象の意味が『八月の狂詩曲』で、分かりやすい形で明示されているのである。
 主人公は、長崎の原爆を経験した老婆である。老婆とその孫を通して、物語は進んでいく。老婆にアメリカに住んでいる兄がいることが分かる。その兄の子で老婆の甥に当たる男が訪ねてくる所から、この物語の「意味」が分かり始める。すなわち、老婆の心の奥底に秘めた感情が明らかになっていくのである。とても、悲しい映画である。老婆は全てを認め、許しているかのように思われた。しかし、「ミタ」人間にしか分からない本当の悲しみは消すことが出来なかったのだ。その悲しみが、映画でしか表現できない形で溢れ出てくるのである。
 黒澤は原爆に対して若いころから、老年に至るまで怒りを抱き続けていたようである(『生き物の記録』、『夢』を観ればそれが分かる)。『八月の狂詩曲』で静かに爆発したその怒りは、このまま原子力を使い続ければいつか人間を滅ぼす、という認識からきたのであった。
                   三橋 慶太
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by chuoeiken | 2005-11-08 13:23 | 社会派ドラマ
イン・ディス・ワールド(監督マイケル・ウィンターボトム、英、02年)
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 観ている間、日本に住んでいる事の意味を再認識させられる。『イン・ディス・ワールド』はマイケル・ウィンターボトムという監督が、いかに「世界」に対して鋭い認識を持っているかを示した作品である。主人公は、本当に中東パキスタン難民キャンプからスカウトした少年である。その少年と、数人のスタッフは「本当に」国境を越える旅をし(パキスタンからイギリスへの越境)、この映画を作り上げたのである。
 全編において、主人公・ジャマール少年(実際の本名と同じ)が使える言語以外は字幕表示されない。つまり、観客は少年の視点で「世界」を冒険するわけである。世界のルールでは、自国の国民と客(ビザを持っている外国人)以外は、排除される事になっている。ジャマール少年の目を通す事によって、その事実が一体どういうことなのか、ということが痛いほど伝わってくるのである。つまり「国」がない「人」の気持ち、「国」を追われた「人」に気持ち、をほんの少しでも「認識」することが出来るのである。ほんの少しであっても『認識している』ということは重要なことである。
 いつ発見され送還されるか、ひょっとしたら死ぬかもしれない「旅」でありながら、様々な文化に触れる少年の新鮮な興奮が伝わってくる。この作品は、現代における本物の冒険映画である。
                        三橋 慶太
                                        
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by chuoeiken | 2005-10-26 18:06 | 社会派ドラマ
悪い奴ほどよく眠る(監督黒澤明、1960年公開)
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 衝撃的な映画である。ストーリーはもちろん面白い。しかし、なにより「政治」が「娯楽」になっている点が衝撃的だったのである。
 日本では政治映画はほとんど作られてこなかった。大島渚の「日本の夜と霧」と近年の佳作「金融腐食列島 呪縛」位であろうか。その背景にはメディアと政治がお互いに、深い介入を恐れたという点が挙げられる。「NHK問題」が世を賑わせたのが(今でも賑わっているが)、なによりの証拠であろう。つまり第3の権力であるメディアと政治は、近づきたいが、遠ざけたい関係なのである。それを、黒澤はギリギリのところでうまく描いているのだ。
 主人公は時代を担った(他の黒澤作品でもそうである様に)存在である。政治に圧制された過去があり、権力に復讐しようというのである。その対立関係を描くのが抜群にうまいのだ。またサスペンスタッチな演出により、誰が観ても面白いエンターテイメントに仕上がっている。そしてなにより、この物語の結末がこの作品を普遍的な映画にしているのである。
 恐ろしさと同時に、権力というものがいかに人間を変えるか認識できる映画である。それらは今の政治にも当てはまる、と感じ私は強い衝撃を覚えたのである。
                        三橋 慶太
                                                
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by chuoeiken | 2005-10-24 19:17 | 社会派ドラマ



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